愛知県立芸術大学では、愛知県からの委託事業である国宝絵画模写事業を始めとし、多くの古典絵画模写研究を行ってきました。模写には、絵具の退色した色調や、剥落・欠損といった絵画作品の「今」を写す現状模写と、伝世の中で失われた制作当時の色彩や形状を再現し呼び起こす復元模写の手法があり、いずれの手法も作品研究を深め、制作を通して用いられた技術・技法を学び継承していくという意義があります。
研究活動
愛知県立芸術大学では昭和49年より数々の国宝や重要文化財等の日本画を模写してきました。このような貴重作品の模写事業には、普段は滅多に見る事のできない貴重作品を大学で研究できることと、痛む事が避けられない絵画の「今」を記録する事で、文化財を将来へ継承する役割も併せ持ちます。また制作当初の材料や技術・技法を多角的に研究する事により、さらに作品原本の制作状況に近い模写制作を行うことが出来ます。
教育活動
模写研究は絵画技法の基礎を学ぶ有効な手段であり、やがて習得した技術は自身の制作にも活かされます。愛知県立芸術大学で脈々と受け継がれてきた数々の重要美術日本画作品の模写事業は、在籍する教員や学生にとって貴重な技術鍛錬の場になったと同時に、開学当時には極めて乏しかった模写手本となる教育参考資料の蓄積にも繋がりました。現在の学生もそのような資料を間近で熟覧して学び、自身の模写制作に励んでいます。また常設の法隆寺金堂壁画模写展示館やその他の芸大資料館企画展示では、滅多に展示機会の設けられない国指定文化財の模写作品を見る事が出来、学内外の人々にとって貴重な絵画作品の鑑賞機会となっています。
作業工程のご紹介
現状模写
現状模写とは、汚れや傷、絵の具の変色も含め現在の状態をそのまま描き写すことをいいます。これは劣化の危惧される作品の資料作成に大変有効です。本大学では損傷の進む「高松塚古墳壁画」や焼失した「法隆寺金堂壁画」の現状模写を行っており、現在では失われてしまった図像を模写作品によって間近に見ることができます。
東寺蔵「両界曼荼羅図」現状模写制作(県委託事業 平成20~25年)
平成20年、東寺(教王護国寺・京都)より特別に許可を頂き、文化財模写事業として国宝「両界曼荼羅図」胎蔵界・金剛界の現状模写制作を6年がかりで行いました。模写の制作工程において、当初に使用された材料・技法を研究することによって再現が可能となり、現状の色合わせをするだけでなく原本に即した模写を制作することができます。
①線描
原寸大に印刷した原本写真の上に製図用トレース紙をあてがい、線描・剥落などを正確に描き写していきます。
②試作
本画に入る前に原本の一部分を抜粋し、制作手順・絵具の検討をします。
③原本熟覧
熟覧では、写真では読み取りにくい顔料の粒子感、彩色手順などを観察します。この時に試作と照らし合わせて確認も行います。
④本画線描
①を絵絹の下にあてがい線描を写し取っていきます。原寸大の原本写真を横に置き、筆致をよく観察して墨線を施します。
⑤彩色・截金
絵具で表裏両面から細部までしっかりと描写します。彩色を終えたら、金箔を焼き合わせて厚みを持たせたものを竹刀で小片や糸状に截り、膠で貼り付けて文様などを表現していきます。
⑥完成